マチアプってすごいなと思ったオッサンの感想。
tl;dr
- 通勤中にXで見かけたのは、マッチングアプリでの活動をほぼ実況しているアカウントだった
- 最初は「痛いな」と思って見ていたが、途中から「これは本人の資質の問題なんだろうか」という違和感に変わった
- マッチングアプリは出会いの入口を広げた一方、選別のスピードを異常に上げただけかもしれない、と思うようになった
- 就活のファネル構造とよく似ている気がした
- ただし私自身はマッチングアプリを使ったことがない。ここから先は全部、外から見ている人間の推測でしかない
通勤電車で見つけた「実況」
朝の通勤電車だった。Xのタイムラインを指でなぞっていたら、あるポストで指が止まった。
恋愛経験がほとんどない、というプロフィールを掲げた人が、マッチングアプリでの活動を投稿していた。マッチした報告。メッセージのやり取り。電話の様子。デート前の緊張。そしてデートの結果。うまくいかなかった話も、包み隠さず出てくる。
正直、最初の感想は「痛いな」だった。身長を盛るためにインソールを買った、という投稿があった。コメント欄を、思わず閉じた。
恋愛版のリアリティショーだった
しばらく追っているうちに、これは恋愛記録というより、番組の構成に近いと気づいた。
デート前の期待、デート中の実況、デート後の反省。フォロワーはそれにツッコミを入れたり、結果を予想したり、助言をしたりする。うまくいけば話は一区切りつくが、うまくいかなければ次のエピソードが生まれる。「彼女ができるまで」という終わりのない構造そのものが、コンテンツを供給し続ける仕組みになっていた。
失敗した投稿の方が、反応が伸びているように見えることもあった。本人がそれを狙っているのかどうかは、私にはわからない。わかるはずもない。構造としてそうなっている、というだけの話だ。
「この人が下手なだけ」で片付けていいのか
ここまでは、よくある感想だと思う。「痛い」「見ていられない」で終わる話だ。
でも、投稿を追ううちに、引っかかるようになった。この人はマッチングまではちゃんと辿り着いている。メッセージもできているし、電話もしているし、デートの約束も取り付けている。それでも、その先の「関係になる」ところでうまくいかない。
これを個人の資質だけの問題にしてしまっていいんだろうか、と思いながら、電車を降りた。
出会いの入口は広がったが、選別は速くなっただけかもしれない
会社に向かって歩きながら、その違和感の続きを考えていた。
マッチングアプリの流れを整理すると、プロフィールを見て、選んで、マッチして、メッセージして、電話して、会って、というかなり長い段階を踏む。
昔なら、出会う機会そのものが少なかった。マッチングアプリはそこを解決したはずだ。でも、出会った後に関係を育てる部分が、同じように楽になったわけではない。むしろ逆で、返信が来ない、途切れる、会った瞬間に合わないと判断される、という「終わり方」のコストがものすごく低い。学校や職場のような、嫌でも顔を合わせ続ける環境もない。
出会いの入口は広くなった。その代わり、選別のスピードが異常に上がった。あの実況アカウントの人は毎回、その速い選別の中で評価され続けているんじゃないか。そう考えると、見え方が変わってきた。
就活と似ている、と思った
大量のプロフィールを見て、複数人とやり取りして、短時間で評価されて、合わなければ次に進む。これは就活のファネル構造とほとんど同じだ。エントリーシートを大量に出し、面接で短時間の判断を受け、落ちたら次の企業へ。
ただ、恋愛は就活と違って、感情や相性、身体的な魅力といった、数値化しにくいものが判断基準になる。薄い関係のまま複数人と接触し、短時間で関係を進められる人には、相当高いコミュニケーション能力が必要なんじゃないかと思う。だとすれば、これは「出会いの機会の格差」だけじゃなく、「関係を作る能力の格差」を可視化する仕組みでもある気がしてくる。もちろん、コミュニケーション能力が低い人には絶対に恋人ができない、とまでは言えない。一つのアカウントを見ただけの話だ。
プラットフォームが売っているのは「恋人」ではなく「探している時間」
会社に着いて、パソコンを開いてからも、頭の片隅にその話が残っていた。
ユーザーにとってのゴールは、恋人ができることだ。でも人生の中で見れば、そこはゴールというよりむしろ入口で、その先の生活の方がずっと長い。一方で、マッチングアプリが直接提供し、収益化できるのは、基本的に「恋人を探している期間」だけだ。
恋人ができれば、そのアプリを使わなくなる可能性が高い。サブスクリプションで収益を上げている企業からすれば、成功したユーザーほど離脱していく、という構造がある。Hingeというアプリは「Designed to be Deleted(削除されるために設計された)」というスローガンを掲げていて、成功して退会することを肯定的なブランドメッセージにしている。でもこれは裏を返せば、成功と退会がセットになっている、という構造そのものを言い換えているだけでもある。
企業が意図的にユーザーを恋人から遠ざけている、とまでは言えない。実際に恋人ができるサービスであることは、口コミや信頼につながるはずだ。ただ、測定しやすい指標(ログイン、いいね、課金)と、測定しにくい幸福(相性、関係の質)がズレたとき、サービスが前者に寄っていく可能性はある。普段ソフトウェアの仕事に近いところにいると、つい「このサービスが最適化しているものは何か」を考えてしまう。恋愛そのものを最適化しているのか、それとも「恋愛を探している状態でのユーザー行動」を最適化しているのか。この二つは、似ているようで、たぶん違う。
結局、外から見ていただけの話
ここまで書いておいて言うのもなんだが、私はマッチングアプリを使ったことがない。妻子持ちなので、これからも使うことはないだろう(と願っている)。だから、これは全部、通勤電車でスマホを見ていた人間の推測でしかない。
あのアカウントは、今日もどこかで新しい投稿をしているんだろうと思う。私はそれを、また電車の中で見つけてしまうんだろう。




